ダイバーシティ推進準備会 diversity

2019 11 07
インタビュー

「ワクワク」を追いかけた先に多様性がみえてくる(PLY OSAKA)

PLY OSAKA OBPダイバーシティ推進準備会


巨大なビジネスのまちOBPの中で、さまざまな人や企業を巻き込みながらビジネスの垣根を超えた世界を創出するオープンイノベーションを進めている拠点があります。2018年3月、富士通関西システムラボラトリ1階横にオープンしたPLY OSAKAです。
社内外の人や組織をつなげ、多様な創発を生み出しているPLY OSAKAの活動からみえてくるダイバーシティのあり方について、担当マネージャーの辻貞信さんにお話を伺いました。



PLYがめざすのは、価値と活動の広がり

PLY(プライ)は、英語で「積み重ねる」という意味をもっています。
ひとことでいうとPLYは、富士通の社員と社外の人たちや業界との新しい出会いや刺激を形にする場です。
一人ひとりがもつ知識や経験、技術、研究、発想などをオープンに、またフラットに積み重ねて化学変化を起こし、新しい何かを生み出す「共創」や「オープンイノベーション」の場となってほしいと考え、立ち上げました。

これからの社会には、新しいコトを受け入れ、創り出す力がいる
僕自身のことを少しお話しますと、2008年に富士通グループへ入社して、製品開発や導入のサポートなどをしてきました。その中で、富士通のような日本のIT企業が抱える限界を痛感するようになりました。

今の日本で一般に知られているITとか情報システムといった世界は、決まったことを効率的に処理させる部分に重点が置かれていて、どんなにがんばっても既存の枠組みを超える広がりは期待できません。
一方、世界ではもうその先のステージに入っていて、ITや情報システムは、新しい社会の仕組みやビジネスを生み出すための補助的な可能性のひとつでしかない。必要とされているのは固定観念を破り、ゼロからイチを生み出す創造の力です。

この先、この会社の中で何ができるのだろう。どうしていきたいのだろう。そう思いあぐねていたときに、富士通がちょうど「共創」や「オープンイノベーション」といった創造のための部署としてPLYを新設する話を知りました。
これはチャンスだと思って応募し、このPLYにやってきたというわけです。


PLYは人をつなぎ、価値を広げ、創出する場
PLYは共創を実践する道場というか、実験室のような場としてスタートしたのですが、実際のところ「じゃあ共創ってどうやるの」という具体的な方法については、まったくの手探りでした。いろいろなイベントを企画しては実験的に進めての繰り返し。年齢層も職業も立場も超えた形で、技術展示イベントや勉強会、意見交換会、交流会など、いろいろやってきました。
オープンして1年ちょっとたちましたが、ようやく「PLY OSAKA的共創」と呼べる取り組みが少しずつ形になってきたかなというところです。


PLY OSAKA担当マネージャー 辻 貞信さん


今は、次のステップを大事に考えて進めています。
(1)オープンなイベントを開催して人の集まるコトづくりをする
(2)集まった人をマッチングさせてコトを起こす

まずは、いろいろな人が集まるための場づくりをめざします。多様な人が集まってはじめて積み重なるものが多様になるからです。
そして、ただ集まるだけではなく、その先の形として集まった人がつながり、新しい何かを生み出すきっかけとなる場にしていく。新しい価値が広がって共創という化学反応を起こさせる拠点となってほしいと考えています。


現在イベントは月に6~7回くらい開催しています。そのうちの6割くらいが外から持ち込まれた企画です。
さまざまな人がPLYに思いを持ち込んで、多様な人を集め、つながり、価値を広げていきます。イベントを進める中で、考えても見なかった人との接点ができ、またつながることで、気づいてこなかった景色が見えるようになります。活動のプロセスの中で自然と価値観が広がっていくのです。
イベントに参加した人はもちろん、企画者自身もイベント開催までのプロセスを通じて価値観が変わっていきます。
この、一人ひとりの価値が変革するプロセスは、ダイバーシティの原点の風景ともいえると思います。


価値を広げる場としてのPLY:「車椅子運動会」
人を集めるイベントによって企画者や参加者の価値観を大きく広げた例として、車椅子運動会をご紹介しましょう。

イベントの発端は、奈良の観光地のユニバーサルマップを作ろうとデジタルテクノロジーの活用を考えたことでした。この中で、自分たちは車椅子のことちゃんとわかっているだろうか?と疑問が出てきたのです。
この「ほんとうにそうなの?」という気持ちって、とても大事だと考えています。
車椅子は弱者が乗る特殊なものと考えていないだろうか。車椅子の利用者にしかわからないと思考停止に陥っていないだろうか。もう少し自分たちが車椅子の世界を知る必要があるぞという話になって、車椅子の世界を知る機会をつくろうとイベントが企画されました。

そのとき、せっかくなら楽しみながらやりたいねという気持ちが強くなり、最終的に運動会というイベントになりました。
車椅子は体の不自由な人が使う大事なもの。それを使って遊ぶ、楽しむなんて許されないという意見もあると思います。でも、真面目に考えているからこそ、車椅子の利用者イコール不幸な人たちというようなイメージを取り払いたかった。心にひっかかる抵抗感を取り払うためにも、あえて「車椅子で遊ぼう」というコンセプトを大事にしたかったのです。
車椅子利用者の人との座談会や講演会、車椅子の試乗会でもいいのですが、しっかり向き合うなら、大真面目に車椅子で遊ぶことで新しい世界を知っていきたい。そう思ったのです。


いろいろな人の意見を入れ、たくさんの人を巻き込みながら、3回のイベントを開きました。

2月の「準備編」では、車椅子で運動会をやるとしたらどんな競技ができそうか、どんな運動会にしたら楽しそうか、アイデアを出し合いました。

4月の「試作編」では、車椅子を普段から使っている人もそうでない人も一緒になって、実際に車椅子に乗ってみながら運動会の競技を試すイベントをPLYの中で行いました。



【写真】4月「試作編」でお試し競技を実施しているところ。実際に競技をする中で、車椅子の特徴や操作を体験。



【写真】お試し競技では、楽しいプレーが車椅子について利用者と一緒に考える機会となるよう、様々なアイデアを出しては実験を繰り返した。


6月は、体育館で運動会の本番。
準備体操、人当てゲームや車庫入れ競争、玉入れなど、笑い声の絶えない楽しいプレーが続きました。


【写真】車椅子運動会当日の競技のようす


最後には表彰式も行い、金メダルの授与も。

【写真】当日配られた金メダル


当初の企画メンバーはたったの5名でしたが、この車椅子運動会を核にしていろいろな方面の方が関わり、数十名ものコミュニティになりました。アテネのパラリンピックの選手までつながってくださったりして、大きな広がりになりました。


価値を新たに生み出す場としてのPLY:「それ、ITでなんとかします なります」
PLYにはもうひとつの顔があります。
先にお話したふたつめの部分、集まった人たちのマッチングで化学変化を起こし、新たなものを創り上げるという「共創の場の提供」です。

車椅子運動会が「価値を広げる」ものだとすると、こちらは新しく「価値を生み出す」ものという言い方もできるかもしれません。
本来なら出会わないような多様な人たちを結びつけ、化学反応を起こさせるというプロセスは、まさにダイバーシティの場だといえます。

この好例が「それITでなんとかします なります」というアイデアソンです。
アイデアソンというのは、アイデアとマラソンをかけあわせた造語で、何かをテーマにして多様な人たちが集まり、短期間集中のワークショップで新しいアイデアを創り出したり、ビジネスモデルやアクションプランを考えたりするイベントをいいます。

関連するものにハッカソンという言葉があって、こちらはハック(システムやプログラムのブラッシュアップ術)とマラソンを掛け合わせた造語です。アイデアソンは、以前はハッカソンで具体的なサービスやシステム、アプリケーションなどを開発するための事前の意見出しという要素が強かったのですが、最近はITに限らずさまざまな新しい価値を生み出すきっかけとなる場として開催されるようになっています。


PLY OSAKAが開催する「それ、ITでなんとかします なります」というアイデアソンは、ITに詳しくない関西の企業さんが抱えている課題や形にしたいと思っているビジョンを、ITの力でなんとかできないか考えよう」ということで始めました。

はじめに企業さんから課題やビジョンといったテーマを提供いただき、アイデアソンの場をセッティングするのですが、このとき、富士通だけでなくPLY OSAKAに来てくださる人たちみなさんに声をかけて一緒に課題解決を考えてくださる方を募ります。
また、ITに関してはスペシャリスト枠を設け、ITの知識や活用事例を教えてもらえるようにしています。

6月に行ったアイデアソンは、「みらいのこうえんづくり」をテーマに、大阪駅の商業施設と様々な企業が協力して知恵を出しあいました。会場も、商業施設とPLYとの2箇所での開催となり、盛り上がりました。

7月に行ったアイデアソンは、「シアターテイメントを考える」というテーマで行いました。映画館をもっと楽しめるアイデアをだそう!と、いろいろな企業にご協力いただいて開催しました。1日めは実際の映画館のスクリーンを借りながらのフィールドワークで共感・観察、2日めはアイデア出しと、デザイン思考のプロセスに則り2日にわたって開催する本格的なワークショップ形式で行いました。

これからもこうした創造的なイベントを、続けていけたらと思っています。






多様性が輝く活動を育てるコツは「プロセス」にあり


このように、PLY OSAKAでは既存の価値を広げたり新しい価値を創出したりする場を提供しているのですが、この中で特に重要なのは、集う場に参加する企画者や参加者の多様性だと考えています。
さまざまな人が集まることで価値が広がったり、まったく新しい価値が生まれたり。環境が多様であることは、とても重要な要素です。
一方で、ただ単にいろいろな人がひとつの場所にいればよいのかというと、そうではなくて、多様な人が集まる環境には、一定の「軸」が必要だと考えています。


軸をもつことで多様性が生まれる
PLY OSAKAで大切にしている軸は2つあります。縦軸がIT-非IT、横軸が同業種-異業種の軸です。
PLYでイベントを考えるときは、このふたつの軸の中で、どんな人が組み合わさると多様な価値の広がりや新たな価値の創出につながるかを掘り下げていきます。
例えば、「IT×同業種」の勉強会で技術を深堀りしていくイベント。車椅子運動会のように「非IT×異業種」で新しい参加者を呼び込んで創発を促すイベント。「それ、ITでなんとかします なります」のアイデアソンのように「IT×異業種」で新しい企業とのコラボを増やすイベント。このように、企画の段階で軸が偏らないよう、組み合わせは意識しています。


多様性そのものを目的にしない
そして、多様性については、軸をもつことと同じくらいプロセスが重要だと考えています。
ダイバーシティは、その状態そのものを目的にしようと思うと無理があるのではないかと思います。ダイバーシティはゴールじゃない。プロセスです。
多様な人を集めること自体が目的だったら、極端にいえば、よく知らないバックグラウンドの人を大量に1箇所へ集合させて「はいダイバーシティ完成。みんな仲良くね」っていうのと同じですよね。これでは何も生み出されません。

何かを始めようとするとき、必ず目的が別にあります。その目的を達成するため、いろいろな人の価値観や知見が必要。だから多様な人を集めるわけです。
集まった人たちがお互いに知りあい、得手不得手を認識しあって、適材適所で力を出しあえるよう関わりあっていく。その中で多様な個性・能力・価値が相互に結びつき、新たな化学反応が生まれる。この「インクルージョン(多様な人の相互機能的つながり:包摂)」が、ダイバーシティの根幹にあたるものだと思います。
このため、PLY OSAKAも、まずみんなでやりたいことのゴールや目的を決め、そこを目指すためのプロセスとしてダイバーシティの状態をつくり、インクルージョンにつながるよう促しているのです。


ダイバーシティの活動を広げるコツは、「場」と「ワクワク感」

場の魅力を引き出す「つなぎ役」に徹する
PLY OSAKAに与えられた役割は、こうしたインクルージョンにつながる場の提供なのかなと感じています。
解決したい・改善したい何かの状況があるとき、さまざまな人が集まって互いの状況を観察したり体験したりします。その中で、いまの状況にどんな意味があるのか、自分たちがもっている能力や技術を使って何ができるのかを考えあい、新しい未来につなげていきます。
このプロセスが形になるように、やりたい人がやりたいことをやれる場を用意する。誰でも来やすい空気をつくって、共感しフラットに考えを出せる場づくり。そんな受け入れの体制をつくっていくのが、ぼくたちにできる働きかけなのかなと思います。


小さなステップでもいい、「足し算」から「掛け算」へ
これからも、ふたつの軸とプロセスは大切にしながら、いろいろな場がつくれるようにチャレンジしていきたいです。
特に、軸から大きく離れているものどうしをクロスさせていくことは、ダイバーシティの観点からもとても重要だと感じています。軸の近いところの組み合わせだと足し算のような積み重ねなんですが、遠いところになると掛け算になります。
掛け算しようと思ったら、集める人も当然多様になります。ふだん自分の世界で関わらない人とつながることがスタートラインになって、いまの気づきを生み出し、価値の変容や創出へと発展していくのです。


原動力は自ら面白がる「ワクワク感」
さいごにもうひとつ。このような多様性を生むプロセスの組み立てや、場づくりを支援するぼくたちのような立場が大切にしたい気持ちに「ワクワク感」があることを、付け加えたいと思います。
車椅子運動会のところでもお話しましたが、ダイバーシティって考えていると、ふざけてはいけない、真面目でないといけないっていう気持ちが強くなりすぎ、思考が固まってしまって、生き生きとした多様な状態なんて生まれてこない気がします。
まずは、結果がどうかより、面白い・楽しいと思ったものをどんどんと追求していく。その中から光るアイデアを捉えて形にしていく。このプロセスが、結果的に多様性を生み出す好循環となって、新しい世界が広がっていくのだと思っています。

これからも、軸をぶらさず、柔軟に、ワクワクしながら、多様性の中から生まれる新しい形を大切にしていきたいと思います。

(インタビュアー:OBPアカデミア 時任啓佑)