2021年1月28日、OBP協議会主催のもと「OBP協議会における環境共生活動〜ワーカーの交流とエリアの活力を生む好循環をつくる〜」が行われました。
自然共生や自然を利用したまちづくりのスペシャリスト3名をゲストに迎え、現地・オンライン含め総勢33名が参加。1986年のまち開きから35年となる今、OBPエリアの次なる発展について考えます。
OBPエリアを環境共生の視点で見つめる会を開催
OBP協議会は理事会や運営委員会、各部会など、いくつかのセクションによって構成された組織。その中のひとつに「環境共生部会」と呼ばれる環境共生を考えたまちづくりの推進を目的とした部会があります。
この環境共生部会による企画のもと行われた今回のイベントは、OBPの魅力の再認識と、今後の魅力増幅のためのインプットを目的に開かれたもの。
「自然共生のワークプレイス」「緑化活動によるコミュニティ」「植花活動とOBPのポテンシャル」の3つのテーマのもと、各分野のスペシャリストにお越しいただきました。
専門家による旬の情報には、重要ポイントが山盛り
生物多様性・環境共生の専門家 株式会社竹中工務店 技術研究所 リサーチフェローの三輪隆(みわたかし)氏からは、自社の取組や、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)を筆頭に海外で躍進を遂げている企業の事例から、自然環境を取り入れたワークプレイスの効果についてのお話がありました。
これからの時代、自然を取り入れたワークプレイスは、生産性や幸福度の向上だけでなく、人材獲得や地価上昇にまで関わっていると三輪さんは話されます。
みどりのまちづくりに関する専門家 NPO法人 NPO birth 事務局長 佐藤留美(さとうるみ)氏からは、NPO birthの活動事例を共有。公園や街角、空き地など様々な場所で取り組める「コミュニティガーデン」の活動は、単に花を植えて景観を整えるだけにとどまらず、花壇の植物が人を集め、関わる人々や地域全体をよい方向に変化させていく力にもなるとお話くださいました。
そして植樹・植花の専門家 株式会社グリーンチーム 月ヶ洞利彦(つきがほらとしひこ)氏からは、現在取り組まれている「御堂筋コンテナガーデン」プロジェクトの事例から、持続可能性を考慮した植花活動のポイントを。
まちを歩く人から声がかかるまで発展したコンテナガーデンの取組は、植花そのものはもちろん、人とどのように関わるかも肝心であるようです。
いずれのゲストにも共通しているのは、緑化プロジェクトが景観を整えるだけではなく、緑化が多方面への好影響をもたらしてくれるものであることがわかります。
御三方の話をさらに深堀してみましょう。
企業も注目!人材獲得やまちづくりにも影響する緑化の力
三輪さんの所属する竹中工務店では、東京本店オフィスを「ワークラウンジ KOMOREBI」として、2018年秋に改修。従来の物理化学的な条件で考えられたビルの在り方を、働く人の健康や創造性など、“人間としての幸福感”を意識したビルの在り方へと舵を切りました。このような自然環境を感じられるワークプレイスづくりは、海外でますます進んでいるようです。
代表的なテック企業GAFAMを始めとする世界的な企業は、オフィスエリアに大規模な植樹を行い、室内外で小さな森を造るかのように自然環境を整えています。
特に室外において自然を感じられるようにする理由は、ワーカーがリラックスできることを目的とするほか、何よりも「人材争奪戦に勝ち抜く」ため。これは、現代の働き手が勤務先を決める際、“自然を感じられる場所”を重要視し始めている背景があります。
人材獲得まで視野に入れた環境づくりは、ビジネス街であるOBPにとっても通じる点があると三輪さんは話されます。
「ただの単機能として緑化を進めるのはつまらないので、緑化を維持するならばシナジーを発揮させて多目的にしていくほうが、コストの面から見ても良いと思います。
世界的に注目されているのがグリーンインフラストラクチャー(GI)という考え方ですが、緑地が持つ5つの効果「環境・社会・経済・防災・健康」を示しています。防災や健康の点を踏まえると多目的な機能が考えられそうです。まちづくりに展開すれば、当然ながら環境負荷の低い街ができますし、都市の魅力が高まり人を引きつけ、コミュニティが醸成されます。災害には強く、心身ともに健康で安寧である、といった一石五鳥のメリットを得られるんです。」
この話を聞くだけでも、緑化の魅力と可能性が大きなものだと感じられます。
企業にとって緑化事業は投資
メリットも感じられる一方で、企業にとってはコスト面でどうなるか検討が必須。
決済権を持つ相手が緑化事業のことをコストではなく投資であると捉えてもらう必要が出てきます。
「今、緑を取り入れる方向は“人間中心設計”であると言えます。自然を感じられるワークプレイスは、働く人の幸福度を上げ、発想もクリエイティブにさせます。そういう場所には良い人材も引き寄せられるので、人材争奪戦を勝ち抜く要素となっていきます。
緑化を実現するために、決済権を持つ位置の人をどのように唸らせるかということはポイントになるのではないでしょうか。企業にとって緑化事業はコストがかかることでもあり、コストに見合うベネフィットがあるかどうかを、様々な成功事例とともに伝える必要があるでしょう。そして、伝える相手によっても響くポイントは異なりますから、ベネフィットの切り口を伝える相手に合わせて変化させ、戦略的に伝えることも大切かと思います。
これから第一線で働くZ世代やミレニアル世代は特に自然が感じられる環境を好みますから、まさに今オフィス、都市の在り方について、自然を活かした魅力的で豊かな空間の再整備が求められています。また、ESG投資など時代の追い風もあるので、緑化への取組についてはこのような点も踏まえて考えると良いのではないでしょうか。」
と、三輪さんは今後の時代を見据えた意見を話されました。
誰もが楽しめるコミュニティガーデンの可能性
緑化からコミュニティ形成に関わる活動を行われている、NPO法人 NPO birthの佐藤さん。
産官学民連携により様々な人々が関わりながら、みどりのまちづくりを進めるため中間支援を行っています。
活動のひとつに「コミュニティガーデン」があります。これは、どんな方でも参加でき、“みんなで考え、みんなでつくり、みんなが楽しめる”という地域の庭。NPO birthとNPO法人 Green Worksとが共同で行う活動で、公園や広場、道端などさまざまな場所を使って、地域に愛されるガーデンづくりをすすめています。
調布市の事例では、住民、小さな子ども、障がい者、市長と、様々な人が関わってタワー型花壇を、みんなでつくったそうです。
「花壇の活動となると、お花好きが集まるイメージがありますが、お花を植えるだけではなく、『ハーブの香りを嗅いでみよう』『お花に集まるチョウチョを探してみよう』などとゲーム性をもたせて参加できる仕掛けもしています。様々な切り口でのアプローチによって、色々な人々が関わることができ、みどりがあるまちっていいな、すてきだなと思ってもらえるように考えています。」
企業が取組むコミュニティガーデンは、社外にも好影響をもたらした
佐藤さんは、15年と長く続くコミュニティガーデン取組事例として、NECソリューションイノベータ株式会社が行う、新木場駅前のハーブガーデンも紹介されました。
はじめはCSR活動として社員がゴミ拾いを行うところからスタートし、今では社内外の人々が関われるコミュニティとなっています。
「この活動の目的は、ガーデンを造るだけではないのです。1日中ずっとパソコンを見つめているNECの皆さんにとって、アフターファイブにみんながお手入れできる場所は癒やしの場でもありました。そのうち、摘んだハーブを社内に持ち込んで香りを楽しむことにも繋がり、やがて街並みもきれいになるので、ガーデンを造る人だけが楽しむのではなく、この街に住む人々にとってもプラスになっていきました。
今では育てたハーブで加工品をつくり、チャリティー販売を行い、最終的に集まった寄付金を地域のコミュニティガーデンの花苗基金として役立ててもらうなど、活動を通して花とみどりの輪を広げられています。
コミュニティガーデンは、都市の様々な課題を解決したり、未来を開いていく可能性がある活動です。お花を通じてというだけではなく、お花を起点とした多方面への企画で趣向を重層的にめぐらすことで、色々な方にとって、各人の楽しみが派生していきます。」
花が咲かなくても楽しめる場所をつくる
月ヶ洞さん率いる株式会社グリーンチームは、御堂筋の淀屋橋から本町間で設置されている植木鉢の花壇「御堂筋コンテナガーデン」を造られています。
月ヶ洞さんは植花において大切にされている3点をシェア。
「私がこの活動で根底に持っている“緑の活かし方”という想いが3つあります。
『緑でその場を輝かせる』『質の良い緑を取り入れる』『場所は人がつくる』です。
緑化となると単純に『緑を増やそう!』という発想に辿り着きがちです。木が鬱蒼と茂り緑があるのになぜか魅力がない、緑の場所をつくっても人が集まらない、そんな場所が意外と多い。
そうならないように、生き生きとした質の良い緑によって、その場所を輝かせ、周囲の人に関わってもらうことで人が集まる場所へとなっていく、ということを念頭において活動をしています。
御堂筋コンテナガーデンでは『歩きたくなる街』にするための設計を意識しています。
ひとつひとつは70cm角と小さいプランターですが、“小さな庭”を造るイメージなので、連続性を保ったうえで季節変化を楽しめる宿根草(多年草)を活用します。
宿根草の概念を知っているだけで庭の見方が変わります。春になれば芽が出て、花の咲く時期は楽しみが生まれ、何もない土だけの季節でさえなぜか愛おしく感じられるんです。」
人の仕組みづくりを考え、長期で続けられる緑化活動に
植物は生きているがゆえ、管理側には維持やメンテナンス面の悩みも生まれます。植花・緑化の活動というのは花を通して“人と向き合う”ことでもあるようです。
「よく聞くお悩みは、活動が続かないケースや、植えた後の育て方が分からない、枯れてしまってゴミを捨てられる、など、モチベーションダウンに関するお話です。
私はこれに対して“単なる花植え活動”ではなく“庭づくり”だとお話をします。難易度は高いかもしれませんが、これがやがて街の景観をつくっていくのだということを訴えています。
ローメンテナンスを求められる声もつきものですが、逆にずっと手入れをされる場所であることが、『場所は人がつくる』ために一番大切だと思います。メンテナンス自体は勘所をお伝えすると、結果的にローメンテナンスになり、植物の概念を知ることがメンテナンスを楽しめることに繋がります。
ですから、本当に育てていくということは大変なことですが、関わる人との仕組みづくりはとても大切です。コンテナガーデンにおいても、官民連携でそれぞれに役割を持ち、お互い協力しあって成り立っています。
今では街を歩く一般の方々にお声掛けをいただき、花を見るためにいつもと違うルートで御堂筋を歩くという方、見ながら歩いて御堂筋のお店でちょっと休憩する方などもおられます。
植えて終わりではなく、とにかく続けることだと思います。」
ポテンシャルが高いOBP。“軽やかさ”も必要。
イベント前にゲストの皆さんはOBPを散策されました。口を揃えてコメントをくださったのが「OBPにはポテンシャルがある」ということ。目の前に広がる自然環境・生物多様性は、ビジネス街において抜きん出ていると評価をいただきました。
初めてOBPエリアを訪れた佐藤さんの感想は、見慣れている人にとって「ハッ」とさせられます。
「川も緑もあるし、遠くを見れば山並みも眺められることに感動しました。SDGsにおける生物多様性のジャンルには既にタッチできる素質があって、非常にポテンシャルが高いと感じました。
千葉大学の環境景観デザイン専門 池邊このみ先生が使われた『5つのC』という言葉は非常にOBPにもフィットすると思います。1つが『カンファタブル』、快適性です。2つ目が『コンビニエント』、便利。3つ目が『コミュニケーション』。そして、あとの2つが大変ユニークなんですが、『チャーミング』と『カラフル』です。
OBPだけでなく、日本のビジネスシーンや日本の公園は共通してこの2点が少ないように思います。『あ、素敵だな!』と、直感的に捉えられるような場所を増やすことは、今後のまちづくりのキーになっていくのではないかと思います。」
月ヶ洞さんからも、植花の観点からOBPに感じた課題を共有。
「OBPは自然が多いだけでなく、一流企業も連立するビジネス街で人も集まる場所であることや、大阪城など文化の面もあり、非常に恵まれた環境だと思います。ただ、植えられている緑色のトーンが暗い印象。単に花を植える話なのではなく、植物の種類を増やして一定の景色にしないような印象にしていきたいところです。変化を見ている人は必ずいます。地道ですが、少しずつ環境を整えていけたら良いと思いました。」
ビジネスイメージが強いOBPにとっては“軽やかさ”をプラスするだけでも印象は大きく変わるのかもしれません。
多方面の趣向を重層的に展開し、「自分ごと化」をする
三輪さんは、コミュニティの特性を踏まえ“自分ごと化”と“重層”というキーワードを使われました。
「コミュニティは、ある一定まで出来てくると自立的に育っていく側面があると思いますが、最初に想いを持った方を如何に巻き込みながら各自が“自分ごと化”になれるかが、実は大切ではないかと思います。
維持管理や、植物を通じた四季折々のイベントなどを行うにも、持ち場や役割によって参加者が感じる興味や面白さは様々ですので、従来の『植えて、終わり』という花壇づくりではなく、色々な切り口から、その時々で、興味ある人が参加できるような重層性は大切だと思います。」
コミュニティづくりの専門家である佐藤さんもこれに共感。
「自分ごと化という点はとても大事です。NPO birthのコーディネーターは、みなさんの様々な興味、心がワクワクすること、深めたい想いなど、人それぞれのモチベーションを受け止められる器みたいな存在として、地域に関わっています。
企画ありきではなくて、みなさんが何を考え、何を求めているか、の確認からはじめます。そして企画を一緒につくったり、調査や作業などプロセスを共にすることで、いつのまにか自分ごと化しているのですよね。双方向に関わり合いながら、活動を育てていくことがとても大切だと思います。」
一歩ずつ、少しずつでも、まず動いてみよう
ゲストから沢山のインプットを経た協議会メンバーからは
「緑があっていいよね、水があっていいよね、という声は聞こえてくるものの、それは具体的にどこが良いのか、果たして本当に良いと思えているか、もっと深堀りして対話することは必要かもしれない。関係各所だけではなく、一般のワーカーが参加しながら、エリアを利用する人々みんなで環境づくりを目指したい。」
といった声も上がりました。
月ヶ洞さんは、OBPへのエールを求められた際に、「とにかくやってみなはれ、という心意気が大切ですよね」と一言。
緑化活動は、コスト面、管理面、人材など、様々な懸念材料も出てくることが想定されますが、この言葉はいつまでも胸に留めておきたいですね。